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わグルま!という別ゲーにて、TRPGを作ってみたので
タル&わぐでの仲間同士でプレイングを出してもらい、小説化してみたものです
そのためタルタロスとは一切関係ありませんので、注意!なぁん!

骸人魚の子守唄 戦闘~ED【小説】
魔界の夜は月が煌々と降り注ぎ、曇っている昼間よりずっと明るく感じるほどだ
さして高くない屋根の上からだが、千切れた雲の影が時々街並みに影を落とすのがくっきり見えた。
「サウンドシャッター!」
エトリが叫ぶと一瞬だけ回りの空気が震える感覚がし、目には見えない音の壁が出来あがる。
下の通りをピータンがゆっくり歩く地面のコツコツした音、空を流れる風の音に時折なにかの鳴き声等、回りの音はくっきりと聞こえるが、此方の音はもう外には漏れて居ない筈だ。
一行は知らず詰めていた息をふー・・と吐き出した。
「まだピータンちゃんからの合図はないみたいだね」
下を見下ろしフゲが呟く、ピータンの位置はまだ道に入って少しの所だ。
「あの位置は蝙蝠犬の目撃情報が多めだな・・ほら、ふらふらしてると危ないぞ?」
覗きこみ過ぎて落っこちやしないかと思い、軽く服をつまんで引っ張ってやる。

「これからの作戦だけど・・ピータンちゃんから合図があったら、エトリ達は此処からソーマちゃんに降ろしてもらって奇襲をかける・・と、これでいいのかな?エトリも、危なくなったらすぐ回復するか逃げて来てね?」
千守が改めて作戦の確認と注意を促す。
横で待機しているエトリの方を見ると本人はやる気満々で素振りをしているものの、主人としては心配で仕方がない。
「あぁ。そうだな、ソーマも大変だろうが、頑張ってな」
どきどきしているのか先程からしきりに一人、目を瞑って深呼吸を繰り返しているソーマに声をかける。
「あ・・!ひゃい!頑張ります!まかせてください・・・!」
相当緊張しているのだろう目がやや潤んでいる。
緊張をほぐしてやりたいが、今何か下手なことを言って更に悪化したらと思うと・・
「大丈夫だよ。」
ふわっと横から伸びてきた手がソーマの頭を優しく撫でる。
「大丈夫・・終わったら皆でおやつでも食べながら笑って帰ろう?」
「にゃぁーん♪おやつにゃー!」
明るいクロモドの声と優しい僥倖の掌にソーマの表情が少し和らぐ。
「はい、そうですね。僥倖様のおやつ僕も楽しみです」
「しかし・・まだ相手さんは出んのかのぅ・・もうすぐ例のペットショップの前に行ってしまうぞ」
囮を引き受けたもののやはり娘が心配なのだろう、普段より一層眉間のしわを深くしつつシレントが唸る。
ピータンは相変わらずゆっくり進んでいるものの、話しに聞いていた水槽も、空を舞っていたとされる犬蝙蝠もその姿を現さない。
ただ辺りにはピータンの足音がコツン・・ぴちゃん、ぴちゃん、ぱしゃんと鳴り響く

ぱしゃん・・

突如ピータンの回りの壁が歪み辺りに汚水の臭いが立ち込める。
そして、しゃらしゃらと鎖のこすれる音と共に、ふわりと宙へ白い死に装束をまとった女性が1人、泳ぐように、嘆くように体を震わせながら現れた。

「・・・・・・っ!!」
突如出現した女性の姿にピータンの体がこわばる。
「現れたようじゃぞ!!」
ばっ、と先に決めておいた隊列順に合わせ、全員でソーマと輪になるよう手をつなぐ。
「ソ、ソーマ全員持てるの? 気をつけてね!?」
作戦として分かってはいたもののやはりまだ少し心配だったらしい千守が声をかける。
「ティシマ!ポケットに飴と傷薬やら絆創膏やら入れてきたから、いくらでも失敗してこい。死なない程度にな」
「怪我前提で話を進めんで欲しいんじゃが…」
いざ!と言う瞬間にそう言って撫でられた頭に嬉しいけれど・・と複雑な表情を浮かべるティシマ
「がんばれ、ソーマー」
「はい!それでは・・いきます!!」
ばっ!っと小さな翼を広げ、手を離さないようぎゅっと握り路地に飛び出す。
舞い降りるその横をばさばさと大きな音を立てながら蝙蝠の羽を付けた犬が舞い降り白い人魚の女性を守るようにその前に立ちふさがると大きく毛並みを膨らませ唸り声を上げ始めた。
その目は明らかに敵意と殺意に湧いており、話し合いなどできる相手ではない事を改めて認識させられる・・

「ピータン殿!固まっておらんで早く下がるのじゃ!」
通りに降り立ったティシマの声にピータンの体がようやっと動きを取り戻す。
その目の端に移るのは敵の後方、物陰から更に1匹・・敵として認識していいのだろうか、小さく、とても可愛らしいふわふわの猫兎が首をかしげながら現れた。
しかし、その目の奥にあるのは確かに此方に向けられるどす黒いまでの憎悪の感情。
白い人魚が死装束の袖をひらりと舞わせるときらきらと光る鱗がその身を守るように包み込む。
緩やかな動きはふとすると恐怖すら忘れ魅入ってしまいそうになるが、冷たく輝くその鱗は一枚一枚が刃物のような鋭さをもって獲物の血を欲しているのだ。
きらり、と光る鱗の呪縛から抜け出て初めに動いたのはティシマ
敵との距離が離れすぎていたため攻撃には至らなかったが、これだけ前に出ればピータンへの集中攻撃を少しは減らす事が出来る筈、と考えての行動だ。
続くソーマも同様に考えたようでピータンの横まで走り込み、頭に付けていた髪飾りを外し回転をかけると、シャリィインと鋭い音を立て、髪飾りが意志を持ったチャクラムのごとく回り出す。
アルケー族の固有スキルであるリングスラッシャーだ。
これでピータンの前方に2つのリングが盾のように立ちふさがった事になる。上手くいけばこのままピータンを無傷でさがらせることが出来るだろう。
しかしこれでほっとしてはいけない、まだまだ戦いは始まったばかりなのだ。
「先手必勝にゃ!!」
クロモドの爪がひらめき手前にいた犬の体に傷を刻み込む。
その鋭さに、ぐぅ・・と犬は一瞬ひるむように唸りこむ。得体のしれない相手であるが、攻撃は効くと確信できた瞬間である。
仲間が攻撃を受けたのを見て興奮したのか、もう一体の犬が凶暴な鳴き声を上げながらティシマへ向かってその牙をむけた。
「ぬぁっ・・」
じゅぁああ!と、噛まれた傷口から煙が上がり、そこから膿色の液体が溢れだす
「ぐっ・・こ奴ら、毒を持っておるぞ!」
ばっ、っと傷口から犬蝙蝠を振り払い仲間へ注意を促す。
「落ち着けティシマ!早く治るよう毒を抜くんだ」
「わかっておる!」
今だ此方を牽制するように唸っていたもう一匹の犬が大きく遠吠えを上げる。
するとその声にこたえるかのように後ろの物陰からもう1体小さな猫兎が姿を現した。ぴょん、ぴょん・・と警戒したように跳ねてはいるものの、まだ攻撃するそぶりはない。
「このっ・・!ティシマちゃんになんてことするんですか―!」
エトリのハンマーが大きく閃き犬蝙蝠がヴギャン!と潰れた声を出した。
かなりの衝撃が入ったようで、ふらふらと立ちあがろうとするその足元はおぼついていない。
「よぉーし!いいかんじっ」
「エトリ!油断しちゃ駄目だよ!」
「うむ!ピータンも早く下がれ!囲まれておるぞ」
「は・・はい!」
主人の声に慌ててピータンが後ろにさがる。
人魚の横に来た猫兎がごろごろと喉を鳴らす音に振り返り見た戦況は、始まったばかりとはいえ、かなり此方が優勢に見えた。


骸人魚がふわりと宙を舞うように移動し、エトリの前へ降り立つとその長いヒレのような袖をくるりとまわして回転する。
「くっ・・・!」
緩やかな動きと裏腹に鋭い傷をエトリの体に刻みこんだ骸人魚は、髪で見えない奥の顔からさも楽しげにこぽり、こぽりと声を上げた。
「気味の悪い奴なのじゃ!」
猛毒を受けにじむ脂汗をぬぐい、目の前に立ちふさがる蝙蝠犬へ一撃を加える。
しかし、毒で動きが鈍っていたからかその攻撃は深く入ったとはとてもいえず、そんなティシマを犬がせせら笑うように一声鳴いた。
「一度さがります!」
リングを設置し終わったソーマが地を蹴り後方へさがる、前方は混戦状態となっているので、後方に現れた敵を先に倒そうという考えだ。
前に置かれたリングはその場に止まり近場にいた犬と骸人魚の双方に小さな傷を付ける。
「おさかなにゃー!」
まとわりつくリングに気を取られていた骸人魚の横からクロモドが飛びかかり、その鋭い爪の切っ先が骸人魚の横腹を深く大きくえぐり取り、その痛みに水の中で叫ぶような、声なき声が響き渡る。
それを危険の合図ととったか、ティシマの前にいた犬蝙蝠が大きく遠吠えを放つと、ばさりと音がして更にもう1匹の犬蝙蝠が退路をふさぐように降り立った。
「うぅ・・こう手数多いのは厳しいです・・」
じりじりと増える敵の数にピータンが思わず弱音を漏らす。
「本命からの攻撃なら一発で吹っ飛びかねんぞ?」
「・・!ほっといてください!」
主人のほんの少し意地の悪い返答に、ほんのり悔しく思えど、それは逆に言えば勝てない相手ではない。という意味にも取れる。
「たまには素直に応援してやったらどうだ?」
「・・むやみに応援するより、これぐらいが良いんじゃ」
確かに効果はあったのだろう、ピータンの表情は先程より引き締まっている。
しかしその間も敵の攻撃は止んでいない、ティシマの前にいた犬蝙蝠が再びその牙をティシマへ突き立てる。
「っ・・はぁ・・はぁ」
猛毒はじりじりと体力を削り取り、牙による追撃も加わりかなりのダメージを負ってしまっているようだった。
「私も一撃食らいましたが・・これでとどめです!!」
その少し向こう側ではエトリがカウンターを叩きこむようにして1体目の蝙蝠犬の撃破に成功していた。
体力の尽きた蝙蝠犬の身がバラバラ砕けるように割れて行き、煙とともに消滅する。
以前として危機は去った訳ではないが、その中の仲間の勝利に少し気が抜けたのだろう、ソーマの耳に可愛らしい猫のごろごろと甘える声が聞こえ、その思考を麻痺させていく。
「・・かわいい・・・」
「にゃ・・!?どうしたにゃソー・・・にゃああああああ」
仲間の異変に気が付き声をかけようとしたその身を鋭い蹴りが急所を貫きながら打ち放たれた。
「う゛にゃっ・・」
ずざざざ・・・!と地面を幾度かバウンドし、仲間から遠く切り離される。
「ピータン!少し下がって桜の用意じゃ!」
「はい!ご主人様!」
此処までで毒を受けた仲間が2名に、魅了が一名。まだ浅いが傷を受けた仲間も多い。
「いきます・・桜の咲くころに!」
ふわりと暗い闇の中に浮かぶ一陣の光のように、薄紅色の花びらがひらひらと舞い散り仲間の傷を癒していく。
完全に完治出来た訳ではないがこれでまだまだ皆戦えるだろう。


先程と同じようにふわり、と骸人魚が腕を振り襲いかかる。
動きは同じに見えるものの、その威力は先程よりも更に強くエトリと、その傍に浮遊していたリングを切り裂き、その威力に落ちかけたリングがガリガリと地面を削る。
「エトリー!余り一か所に固っちゃ駄目だよー?気を付けてー」
よろけたエトリに千守がエールを送る。
「大丈夫です!このぐらい怪我したうちに入りません!!」
まだやれる!と意気込む彼女の闘争心は先程より更に強く燃え上がっているようだ。
とはいえ、作戦自体は忘れてはいないらしくターゲットとするのは取り巻きの動物からだ。
手にしたハンマーを振りかざしすぐ横にいる猫兎へと殴りかかるが、先程の痛手で少し威力が落ちていたのだろう、軽くぴょんとかわされる。
「気にするなエトリ殿!まだまだこれからじゃ!」
体に纏わりつく毒気を断ち切り、ティシマが蝙蝠犬の翼を打ち砕く、ギャイン!と鳴いて地に落ちた蝙蝠犬の体は歪んで霞み、その体力が尽きて来ていることを感じさせた。
「ヒドイ・・」よし、いける!そう思った時、濁った水の底から響くような声色がぽつりと聞こえ、切られたピータンの叫びが響く。
その目線の先には、レイピアを容赦なく引き抜くソーマの姿。
「まだ正気に戻ってないにゃ!?」
クロモドが戦線に戻るべく走り寄りながらソーマに向かって叫ぶが、彼女の口から洩れるは暗い恨みの言ばかり。
しかし、そちらにばかり気を取られてはいられない。
ティシマへ最後のあがきと言わんばかりに蝙蝠犬が再び牙を向けて襲ってくる。
「ぬ!そう何度も喰らいはせぬわ!」
傷は受けたものの、毒が注がれる前にその牙をはじく事に成功する。
「ティシマさん、助太刀します!」
ピータンの打ちおろした一撃は蝙蝠犬の体を打ち砕き、先程の蝙蝠犬と同じく足元を浸す水に溶け込むようにじゅわじゅわと消えて行った。


「みゃぁん♪」「にゃっ!?」
戦線に戻ろうと走っていたクロモドの目の前に再び飛び込んできた小さなふわふわ毛玉。
そこからまたもや強力な蹴りが撃ち込まれ、クロモドの体が再び遠くへ吹き飛ぶ。
そのさまを楽しむかのように骸人魚が再びぐるりと袖を回せば、遂に耐えきれなくなったリングがその回転を止めかしゃりと乾いた音を立て地面に落ち、同じく攻撃を受けたエトリの体もふらふらと足元がおぼつかなくなっていた。
「ちょ・・エトリ!回復!回復出来るでしょう忘れないで」
千守が慌てて声をかけるが、はぁはぁ・・と肩で息をつくエトリにその声が届いているのか・・転生悪魔達のいる場所からは分からず不安が募る・・だが、今は信じて見守るしかないのだ。
その後方では、後ろから迫って来ていた新たな蝙蝠犬にティシマがハンマーを振りおろしていた。
余り大きなダメージを与えられた訳ではないが、間に入った事により少なくとも今前線に出ているエトリがさらなる追撃を受ける可能性は減っただろう。
蝙蝠犬は、目論み通りティシマに向って牙をむく。
毒こそ出していなかったものの、今までよりも深々と牙が食い込みティシマの咽からくぐもった声が漏れた。
「ソーマ!いい加減正気に戻ってなぁん!」
フゲが声をかける先には再びピータンへ向いレイピアを振り上げるソーマの姿。
「ダシテ・・タスケテ・・シアワセ・・?ニクイ・・ッ」
ぱくぱくと魚が水面で呼吸する時のように口を開き呪詛を漏らす。
「・・あれは、あの人魚の想いか・・?」
設置者の動きに合わせ動くリングがしゃりんと猫兎へ小さな傷を付ける。
一度放たれたリングが、初めに敵と定めた相手へ動いてくれていたのはせめてもの幸いと言うべきか・・
「――はっ…!回復!」
ふらりと傾ぎかける体を立てなおし毒を振り払った、エトリが回りへ桜を散らす。
「私からも行きますね!」
続くピータンの桜とエトリの桜がひらりひらりと混じり合い降り注ぐ様は、まるでその一角だけ暖かな春が訪れたかのような輝きを放っていた。
そんなつかの間の癒しを切り裂くように、甘ったるく縋る様な猫の声が響き渡る、先程ソーマを魅了した猫兎の鳴き声だ。
「うにゃ・・」
再度前線に向かい走っていたクロモドの足が緩くなりその場に停止する・・その目は遠く、何処を見ているのかが分からない。
更に兎猫の前方を飛んでいたリングもやや傾いだように見えた。


「これは・・拙いんじゃないかのぅ」
「クロモド・・!しっかり!」
主人たちの心配そうな声が通りに響き渡る。
回りの動揺など意に介さぬように、骸人魚がその長い白髪を舞わせながら更に大きく袖を振り、その延長線上にいたエトリとリングへ鋭利な傷を刻み込まんと襲いかかる。
「そう何度もやられはしません!」
先程まで何度このヒレが眼前を横切っただろう、その軌道を読み切り身を低くする事で回避する事に成功した。
「良いぞ!エトリ殿!」
蝙蝠犬へハンマーを振りながらティシマが目を細める。先程の桜吹雪により大分回復はしたものの、以前危機的状況は去っていない。
今も暗い目をしたソーマが再びそのレイピアを・・
「はっ・・!?」
自らが振り上げたレイピアと、その先にいるピータンを交互に見つめ戸惑っている。
「ソーマ!気が付いたなら横の猫兎を叩くなぁん!」
「あ・・はい!分かりました!ますたぁ!」
しゅっ、っとレイピアを構え直し、走り寄るスピードを落とさずに一気に切りつける。みゃぁん!と悲痛な悲鳴を上げてよろける猫兎に一瞬良心がとがめかけるが、これは本物ではない、骸人魚がつくりだした虚像なのだ。
「いたっ!」
猫兎の魅了にかかったリングがエトリの皮膚を軽くこする。
「猫兎のあの術はやっかいだな・・攻撃の順番を誤ったか・・?」
「今更そんな事を言ってもしょうがないよ、クロード。それよりクロモド!ちゃんと目を覚まして、クロモド!」
「・・ぅ、にゃ。ご主人様の声にゃ・・?」
暗く曇っていた瞳に光が戻り、クロモドが僥倖の方を見上げる。
「クロモド!そこの兎猫を!」
「はいにゃ!!」
ご主人の顔は何処か心配そうだった、そんな顔にさせてしまった己が醜態も悔しいが、何よりその原因を作ったのは・・・
ずがっ!!っとクロモドの爪が猫兎の腹を引きさき、その体をバラバラに四散させる。
「やっつけたにゃ!」
じゅぅじゅぅ・・と水の中へ泡と消えていく猫兎にクロモドはにゃふん!と鼻を鳴らした。
仲間が少しずつ減ってきている。そんな感情はあるのだろうか・・それとも・・
毒を帯びた犬蝙蝠の攻撃がティシマを襲うが、此方も少しずつタイミングが分かってきたのだろうか、毒が回る前に身を引き、被害を最小限に抑えることに成功していた。
「いいですね!流れは此方に向いてきますよ!」
「きゃぁっ!!?」
先程受けた毒を払拭したエトリが後方へ走りながら叫ぶと同時に、その横をソーマが凄い勢いで吹き飛んでいき、骸人魚の足元から伸びている鎖にガシャリと絡まり止まる。
どうやら先程切り結んでいた猫兎の蹴りをまともに食らったようだ。
「大丈夫ですか!傷は浅いですよ」
えいっ!と攻撃へ参戦したピータンがハンマーを振ったが回りを気にかけていたが故だろう、犬蝙蝠はばさりと羽ばたき避けた。


「っ・・鎖が!」
じゃら、と人魚の鎖に絡まるソーマへ、骸人魚は良い獲物が飛んできたと言わんばかりにゆらりと宙を揺らめき、深く・・鋭く袖をふるう
しかしソーマは絡まっていた鎖を利用し、攻撃をガードする事に成功したらしく、はぁ・・と軽く安堵の息をつくと鎖を振り払い体制を立てなおした。
しかし骸人魚が狙っていたのはソーマだけではない、ぐるりと回されたその軌道は真後ろに居たクロモドにも傷を深く深く刻み込み、リングは砕け地に落ちた。
「痛ったいにゃ!」
反撃!と言わんばかりに繰り出した一撃はゆらりと揺れる骸人魚の髪先を掠り、本体には避けられてしまった。
「クロモド殿、ソーマ殿!余り固まっていると危ないのじゃ」
犬蝙蝠へハンマーを振りながらティシマが声をかける。
「はい・・!分かっています」
ばっ!っと骸人魚から離れ先程自身を蹴り飛ばしてきた猫兎を突き通す。
それで丁度体力が尽きたのだろう、レイピアに突かれた穴からぼふりと空気が抜けるかのように弾け、小さな体が四散する。
「・・やりました!ますたぁ!見てましたー?」
嬉しげに主人へ向かって手を振るソーマへ、油断大敵と言わんばかりに犬蝙蝠がガツンと体当たりを繰り出す。
「――はっ、回復……」
目の前の攻撃ラッシュを見て思い出したかのようにエトリが桜を散らす。
「ナイスです、エトリさん!えぇーい!」
ピータンのハンマーが犬蝙蝠の脊椎を打ち砕き、その体は潰れるようにぱらぱらと四散していった。
これで残すは、骸人魚ただ一人


ふわり・・とその長い髪を・・袖を・・金属質な光を放つ鎖までをも軽やかに、緩やかに宙へ舞わせ、骸人魚が見えぬ奥の表情でこちらをひたりと睨みつける
見えずとも肌で感じる、痛いまでの殺意。
くねりと体をくねらせ、骸人魚は空を仰ぎ見ると緩やかな、しかし何処かすすり泣くような声色でこぽこぽと歌を紡ぎ出す。
それは聞いたものを深く深く、この腐敗した水面を突き抜けなお深く。暗い水の中に引きずり込むかのような殺意に満ちた子守唄・・
「くっ・・るしいにゃぁ・・」
こふり、と小さく息を付いてクロモドの体が水面へ落ちる。
「ぅう・・凄い眠気でくらくらします」
鞄から眠気対策に持ってきたピコハンを自身へぺしぺし、とやる事でなんとか眠気に打ち勝ったらしいエトリ。
「クロモド殿!起きるのじゃ!そこで寝てしまっては危険なのじゃ!」
「ティシマ、正面には回るんじゃないぞ」
「分かっておる」
「ソーマ!ラスト1人なぁんよ!」
「はい!頑張りますよ、ますたぁ!」
「エトリ、気を抜かないでね!」
「勿論です、これでも食らっちゃえー!」
「ピータン、近づきすぎてはいかんぞ。いざという時のため間を開けておくんじゃ」
「はい、様子見ですね!」
各々の主人と娘達が声をかけあい一気に骸人魚との間をつめる。
攻撃範囲にまで踏み込んだのはソーマとエトリの2名だ。ソーマはレイピアで骸人魚の鱗を砕き、エトリはここぞと言わんばかりに得意の貫通攻撃で正面から深い一撃を叩きこむ。
攻撃と同時に鼻を押さえたくなるような腐敗臭が漂い、骸人魚の体からぼたぼたと濁った血のような水が溢れだす。


流石に痛みや苦しみは感じるのか、震え悶えるように体を折り曲げたかと思うと、次の瞬間、両の手を大きく広げ、目の前にいたエトリをぎゅう・・と抱きしめた。
「あっ・・ちょ!離してくださ・・
慌てたエトリが全てを言い終える前に、骸人魚の体が明るく光り・・自らの体を火種とし爆発した。
「あ、あぶなかったぁ・・」
正面で抱かれたエトリはギリギリで腕から抜け出しガードする事が出来たようだ。
「く・・ぅ」
真横に居たソーマはその爆風を直に受けてしまったらしく、レイピアを地面に突き立てる事でかろうじて立っているような状態だ。
そして真後ろで眠らされていたクロモドはと言うと・・
「う・・にゃぁ・・にゃああああん」
悪夢でも見ているのか、じたばしゃと寝がえりを打ちながら足を動かし苦しんではいるが、その体に大きな傷はない。どうやら爆風と同時にごろりと大きく寝がえりを打つ事で運良く攻撃を回避したようだった。
そして、攻撃を回避されたせいであろうか・・破壊する対象を失った爆破エネルギーは骸人魚自身の体を打ち砕き、その体を燃やしていく。
その姿はもはや華麗な人魚とは言い難く、ぼろぼろになった鱗はかろうじて体に数枚こびりつき、ヒレのように伸びやかだった袖や長い白髪は見る影もなくぼろぼろに焼け焦げ、その傷口からはじゅぅじゅうと煙が上がり腐肉が焼き焦げたかの激臭が辺りに立ちこめている
「いける・・これで最後じゃ!喰らうが良い!」
ざっ!っと人魚の横へ回りこんだティシマがスキルコンボを発動させる。
自身の性格スキルであるツンデレ2連撃とエンシェントスキルである2連ハンマー・・合わせて
「4連攻撃なのじゃ!」
ぐらりと傾ぐ骸人魚の顔に胸に腰に尾鰭に全身全てに強烈なハンマーの嵐が降り注ぐ。
1撃ごとに砕け弾けて行く骸人魚の肉体は、まるで先程までの存在感が嘘だったかのように、犬蝙蝠や猫兎達と同じく宙へ四散するように消えていく。
それと同じく回りを囲んでいた水槽も崩れるように溶けだし、消えてゆき・・何時しかそこは、夜の暗がりに沈んではいるが、昼間通った魔界商店街に戻ったようだ。


「これで・・終わりかのぅ?」
さぁ・・と夜露をはらんだ爽やかな風を受け、ティシマが呟く。
「・・まるで、悪い夢でも見たかのようですね」
先程まで漂っていた腐臭も、纏わりつくような殺意も・・全てが無かったかのように消え失せていた。
しかし・・
「クロモド!ほら起きて・・傷は大丈夫?」
「うにゃ・・お魚どこいったにゃ?」
今まで見ていたものはけして幻なんかではない。
「ソーマー!怪我!怪我にはウゴケルンなぁん!!」
「うぐ!?けっほ!!けほ!ますたぁ自分で・・自分で飲めますからー」
なぜなら負った傷も、負わせた傷も、まぎれもない現実としてこの体に残っている。
「ティシマ、よく頑張ったな・・ほら、傷を見せてみろ」
「う、うむ!」
戦闘の終わりを見届けた主人たちの優しい声が、瞳がしみわたる。先程のとは間逆の存在・・
「良く頑張ったのぅ」
「えへへ・・ありがとうございます」
幸せである者を憎み、もがき伸ばされたあの腕は何を掴もうとしていたのか。
「エトリー、格好良かったよー」
「頑張りましたよー、まだまだ行けちゃいますっ!」
あのうず高く積まれた水槽も、白い魚も、空を飛ぶ犬も、柔らかな猫ももう居ない。
先程と変らずにあるのは隙間から見えていたこの星空だけだ。
骸人魚の引きずっていた鎖の先にあった崩れかけたペットショップ、その奥で・・まだ僅かに残っていた鎖がさらさらと崩れ消えていた。
恐らくもう此処にあの骸人魚が現れることはないだろう。
「さぁ!それじゃぁ帰ろうか!もう夜遅くてちょこっと眠いなぁんよ」
「・・・・帰りもワシが引いて行くのか・・?」
「頑張れ」
「お願いします!」
「あ、そう言えば夜食もあるよ」
カラカラと来た時同様、リアカーに揺られ(・・一部は引いたり歩いたりもしていたが)家路につく。
その後ろの路地からは、もう水音が零れる事はなかった。
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